CRTの軌跡

フェーズ1:通商問題に端を発した「気づき」の時代(1986年~1991年)

 1985年5月、オランダの新聞にある記事が掲載されました。
「日本のまやかしの微笑」と題されたその記事は、フィリップス社の内部調査レポートをもとに「保護主義、ダンピング、盗み、脅迫、これらは全て欧州と米国のエレクトロニクス産業を破壊することを狙っている、日本の戦略に含まれている」と述べ、当時深刻な状況となっていた日本と欧米諸国との貿易摩擦問題に関し、日本を厳しく非難する内容となっていました。
 この記事を読んだフィリップス社元会長のフレデリック・フィリップス氏は、「『日本の友人』としてこの記事を是非とも伝えたかった。外から見た日本のイメージを日本人は知る必要がある。イメージは時に事実より重要であり、実際、過去の戦争の多くは事実によってではなくイメージから勃発している」としてこの記事を英訳して日本へ送り、同時にオリビエ・ジスカールデスタン氏(元ヨーロッパ大学院副理事長)とともに、日米欧の財界人の間で率直な意見交換の場を持つことが必要だとして、会議の開催を提案しました。
 こうして開催された第1回のグローバルダイアログでしたが、当初は欧米側出席者によるジャパン・バッシングの嵐が吹き荒れ、会議は険悪な雰囲気となってしまいました。 しかし、第二次大戦後の独仏間の和解のきっかけを作り、また日本の国際社会復帰のきっかけの一つを作ったといわれるスイス・コーの地に流れる「コーの精神」、つまり「相手の立場を考えて共通項を求めよう」という雰囲気が生まれ、「相手方に何をすべきかを指図するのではなく、まず自国の至らない点を改める」という表現の下、日米欧三者がなすべきことは何かを明記した共同提案が出されました。
 CRTは、こうして通商問題を主なテーマとした日米欧三者の対話の場として、その歩みを始めたのです。

コラム-「コー」とは?

 コー(Caux)とは、スイス西部、レマン湖のほとりにあるジャズフェスティバルでも有名なモントルーから登山電車で1時間ほど登った、山の中腹にある小さな村です。
 そこに建つ「コー・マウンテンハウス」は、民族・宗教・国籍等のあらゆる違いを超え、世界約80カ国で和解と融和をもたらすための活動を行っているNGO団体であるIC(Initiatives of Change)の国際会議場として、これまでにさまざまな紛争解決のきっかけを作ってきました。もっとも著名なものとしては、第二次大戦後いがみ合っていた独仏間の和解を醸成したことが挙げられます。 コー・マウンテンハウス
  ICでは毎年夏にこのコーの地で国際会議を開催しており、その静かで平和的な雰囲気が、貿易摩擦問題の最前線となるこの会議にはふさわしいと考えたフィリップス氏の協力依頼をICが受け入れ、第1回の会議がコーの地で開催されました。
 その後、この会議体は「経済人コー円卓会議(Caux Round Table)」と名付けられ、組織化するとともに、今日に至るICとCRTとの関係が築かれていくこととなります。
CRTの主な動き
1985
5月、オランダ新聞社(NCRハンデルスブラット紙)が日本の貿易に対する姿勢を批判的に風刺した特集記事を掲載。オランダ・フィリップス社のフィリップス元会長を通じて、この新聞記事が英訳されて日本に紹介される。フィリップス元会長は、貿易摩擦と保護主義の高まりを懸念し、この問題の打開を求めて、MRA(現在のIC)へ支援を依頼する。
1986
8月、第1回CRTグローバルダイアログ開催(於:スイス・コー)
テーマ:「貿易摩擦の解消を促す新しい姿勢やイニシアティブを求めて」
CRT創設
1987
5月、「経済人コー円卓会議日本キャンペーン」開催
目的:貿易摩擦解消のための各国での自助努力に対する支援と日本の実情に対する理解を深める
8月、第2回CRTグローバルダイアログ開催
テーマ:「アメリカの双子の赤字(財政赤字・貿易赤字)への対応」
1988
4月、「経済人コー円卓会議アメリカキャンペーン」開催
目的:欧米経済人との「本音の交換」、アメリカの実情に対する理解を深める
8月、第3回CRTグローバルダイアログ開催
テーマ:「ヨーロッパ統合と自由貿易」
1989
2月、「経済人コー円卓会議インドキャンペーン」開催
目的:日米欧が途上国問題の問題点と現状について学び、議論する
8月、第4回CRTグローバルダイアログ開催
テーマ:「変革の源泉」
グローバル化を見越し、コーの精神を活かした産業のルールかと枠組み作り、ビジネス戦略の作成検討など、8つの活動目標が提案
1990
4月、「経済人コー円卓会議東アジアキャンペーン」を、東京及び台北で開催
テーマ(東京):「日米欧は自らの改革をどう進めるか」
テーマ(台北):「世界的な経済統合が進む中でのNIESにおける機会と役割)
8月、第5回CRTグローバルダイアログ開催
テーマ:「セッション1:日米欧間の期待の高まりに伴って必要とされる新しい態度と行動」、「セッション2:ソ連・東欧の改革-その影響と好機」、「セッション3:環太平洋-世界的な好機」、「セッション4:発展途上国に対する共同責任」
1991
4月、「経済人コー円卓会議アメリカキャンペーン」をワシントン、ミネアポリスで開催
8月、第6回CRTグローバルダイアログ開催
テーマ:「競争的な世界における調和ある協調を目指して」

 

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